角川書店 (1981)
ISBN : 4048520369
価格 : ¥1,470
[bk1 ]
いわずと知れた手塚治虫の名作。
これは角川書店の愛蔵版ハードカバー。
実家にCOM別冊かなにかの古いやつがあって、子どもの頃それをとても大事に読んだものだけれども。
久しぶりにこれを読んで違和感を覚えた。
細かいディテールに随分違いがある。
手塚治虫氏は版を重ねるたびに少しずつ手を加え続けたという話は聞いたことがあるし、石ノ森章太郎の「009」にしても他の作品にしても違う版を見ると微妙にストーリィが変わっている、ということは確かにあるけどね。
ちなみに本書でも気がついた点のみ、いくつかあげてみることにする。
P43:
ロミを拒否するカインは、ロミに
おまえは「知識の塔(ロケット)」を取る気だ
と告げるが、古い版では「オレには母さん(ロボットのロビタ)がいる。一人じゃない」
とロミと一緒に住むことを拒否する。
ロミはそれを聞いてロビタを破壊する。
P51:
初めてのロミの手料理を飲み込むカインに、「いつか地球に行く夢」をロミは話すが、古い版ではこの会話はない。
古い版では、壊してしまったロビタには料理は出来なかったろう、とロミがつぶやいているのみ。
P61:
息子と色々なテープをきいている。前後は忘れたが、古い版ではそのひとつに「ビートルズ」と書いてあることをロビタに教えてもらった、とカインがつぶやく。
またこのあとのシーンで地球に行くロミの夢をカインが語っているが、これは違う台詞だったはず。
P65〜
セブは火の鳥の与えた、女の子が生まれる夢を見て…というストーリィになっている。
古い版でもセブは女の子が生まれる夢を見ているが、コマの進み方がだいぶ違う。
確か、古い版ではカインは食べ物のひどく取れなくて難儀した年に子ども達の食料となるために死んだ。それを受けてこの章ではロトが「女の子が生まれないのは、肉を食べないせいだ。ロミに肉を食べさせるには、セブを殺して…」と発言し、それを聞いてひどくショックを受けたロミがコールドスリープに付くというシーンがあったはずである。
人食忌避の意味合いからこのあたりのストーリィを全て改変したと思われるが、この改変により、なぜ火の鳥がセブに力を貸して女の子が生まれるようにしたのか。ロミは何故エデンが栄えるまでずっとコールドスリープから目覚めようとしなかったのかといったストーリィ上の無理が出ている。
P155:
ロミとコムが食料を食べているシーン。
もし食料がなくなったら自分を食べてくれ、とコムが言う。しかし古い版ではコムは自分が迎えるであろうメタモルフォーゼの能力を知らない。
古い版での台詞は、先のカインが食べられるために死んだ、という言い伝えを持って自分を食べてでもロミは地球につくべきだ、と説いている。
P157:
氷で閉ざされた惑星。古い版ではここから一人、異性人がこの岩くずの船に同乗する。この異星人は雌雄同体でラストでズターバンの宇宙船にびっしりと卵を植えつけて死ぬ。ズターバンのしたことに対してストーリィ上一矢報いる構成となっていたのにこの異性人が出てこないのは非常に残念。
しかし、後半の全てのコマからこの異星人を消すのは大変だったろう。
P208:
ロミはアタマを打って気絶したとあるが、古い版では、地球にそっくりのもうひとつの惑星に喜びのあまりロミが飛び降りた瞬間、強い電気ショックを受けて気絶する。
─ 古い方の版を最後に読んだのは随分昔だけれども、人食忌避と小さな雌雄同体の異性人(名前忘れた…)の存在を中心に随分変更があったことがわかる。
結果的にズターバンはエデンを滅ぼすきっかけを作るが、最終的にエデンで地震の中で死ぬだけではなく、一人宇宙船で脱出しようとしたら宇宙船の中が卵だらけで発進できなかったという逸話がなかったのは残念。
でも「星の王子さま」の朗読のシーンは好きだったのでこれが残っていたのは嬉しい。
─という話を読み終わって飼猫氏にしていたら
「オレにとってはこのハードカバーが火の鳥。そんなに違いがあるとは知らなかった」
といわれた。ふむ。
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