森博嗣著
出版社 中央公論新社
発売日 2004.10
価格 ¥ 1,050(¥ 1,000)
ISBN 412500871X
うっかりしていた。何ページか読み進めてから、「スカイ・クロラ」の主人公ではなくその上司であったクサナギ・スイトが語り手の主人公だと知る。…語り口調が一緒じゃん(笑)
つーことは、「スカイ・クロラ」の何年か前の話、という位置づけになる。
著者の語り方、専門分野に対する一般読者への解説のなさを不親切だとか、戦争の中でも淡々と日常生活を送る本書の登場人物たちへの苦言めいた感想を持つ人は多いようだが、私はそうは思わない。
そういう感じ方をすることはよくない、と画一的に押し付けたところでなんであろう。例えば戦争。戦争はよくない、と一方的に押し付ける概念こそ、病的ではないのか。
淡々と、ボクはこうなんだ。周りと一線を画しているかもしれないけれども、僕はこれで自然なんだ。と断言する。
かといって、攻撃的に革新的に動いているわけではない。社会の中に身をおいて、淡々と自分の行き方を貫く。それで良いのではないだろうか。
著者、もしくは著者の描く世界の「一般概念」を読者に対して切々と事細かに解説することは可能かもしれないが、それでは森世界の良さは半減してしまうと思う。
第一、「僕はここまで理解していますが、あなた方読者達はここまでは理解できないでしょう。だから解説してあげますね」ってのは読者に対して失礼ではないか。
一つ一つの道具立てについて説明しなければ、その世界の全てがわかるものではない。私たちだって日常会話の全てをわかっているわけではなく、相手の言った事がすべてわからなくても雰囲気で大体の意味を感じ取って「うん、そうだね」と話を進めることはできるし、その中での大筋から的確なアドバイスをすることだって出来る。大体において言葉は不確定で物事の全てを語れるほど便利な道具ではないのだ。
それを同人誌的だとかなんとかいうことは簡単であるが一方的な評価とも思う。実際に、彼にこれだけの読者がついているのだから。
キルドレ。これもまた詳細には語られていない道具立てであるがそれでも永遠の子ども、人工的に作られたある人型人工生物であるらしい。
主人公たちキルドレが、オトナになりたくない。ずっと飛行機に乗っていたい。管理職なんかになりたくないと感じたりしている。
どこかで見たような、と思いつつ。それでも彼らはキルドレであることで現代社会にはない「子どもでい続けることの正当な理由」を有している。
そこには、戦争でヒトを殺すための理由なんか要らない、ただ飛行機に乗る理由として選択したに過ぎない彼らの生き様がある。
それでいいんじゃないのかなぁ。
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