キャメロン・ウエスト著・堀内静子訳
出版社 早川書房
発売日 1999.08
価格 ¥ 2,310(¥ 2,200)
ISBN 4152082356
多重人格についてのノンフィクションは、以前から関心があり色々読んできている。
イヴ…「イブの3つの顔」「私はイヴ」
の他、「失われた私」「ジェニーの中の300人」「魔法の娘」「24人のビリーミリガン」「ビリーミリガンと23の棺」などなど。
今回の手記は、アメリカで多重人格…今は解離性同一性障害と呼ばれるこの病気がある程度社会的に認知され、治療に関するノウハウが定着した後の出来事らしい。
私が読んだこれまでの手記に比べて異なるのは、患者である主人公が、男性であり(尤もビリーミリガンも男性だったが)、そして幸せな結婚生活を今も営んでいること。
確かに入院も何度も経験しており、セラピーは完成していない。しかし彼の手記が好ましく、後味のいいものに仕上がっているのは、いくつかの要因がありそうだ。
ひとつには、私の今まで読んできた手記は、核となる人格、つまり本来の「彼(or彼女)」と他の人格たちとの間にほとんど共在意識がなかったのに比べて、キャムには共在意識があり、時間の断絶がないこと。時間の断絶を経験している患者たちの手記は、余りにも哀しい。
そして、彼にごく全うな愛情を持ち、彼を信頼し理解しようとする「ごく当たり前の」家族の存在だ。
これは解離性同一性障害について、名前だけにしても、夫人であるリッキが知っていたこと。リッキが心理学を専攻していた経歴があること。
キャムの治療にだけのめりこまず、リッキはキャムの治療に積極的に力を貸す一方で自分の仕事を見つけ、自分の生活をも大事にしようとしたこと。正常な家庭生活を保とうと努力し、ある程度成功しているらしいこと。
共在意識を持たない、私が今まで読んだ多重人格の体験記によればこれは信じがたい成功とも思える。
彼がその後どうなったか、次作を待ちたいとも思う。
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